顔の傷跡

顔の傷跡キズあとについて

顔のケガをしたあとには、何らかの痕跡、いわゆる傷跡(瘢痕とも言います)が残ることがあります。
みなさんも傷跡が残らないことを望まれていると思いますが、深いケガや挫滅したキズでは、適切な治療が行われたとしても、治ったあとの瘢痕を回避できないことがあります。また、目や口のまわりでは、瘢痕に伴って生じるひきつれ(拘縮)によって、目を閉じる、口を閉じる、などの基本的な機能が損なわれることもあります。何より、顔の大切な機能である、外観や整容性が失われることは耐え難い苦痛を与えるため、われわれ専門家は傷跡の予防と治療をとても重要なものと考えています。
ここでは、傷跡の症状ならびに予防と治療について解説します。

傷跡の症状

1. 長い直線やシワに交差する傷跡

人間のからだはほとんどが曲線で構成されているため、長くて直線に近い傷跡は目立つことがあります。また、顔のシワに沿った傷跡は目立ちにくいのですが、シワに交差する傷跡はひきつれやすく、顔のちょっとした動きで目立つことがあります。キズの長さを短くすることは難しいですが、キズの形を変えることによって傷跡を目立ちにくくし、ひきつれを緩和することは可能です。

2. 幅の広い傷跡

ケガをした際に、真皮縫合と呼ばれる皮膚を引き寄せる縫い方をしていると、縫合部にかかる緊張に抵抗して傷跡の幅を狭くすることが可能です。しかし、挫滅が強い場合は真皮縫合ができないことがあったり、皮膚が欠損している場合は縫合部にかかる緊張の方が強く、傷跡の幅が広くなることがあります。傷跡は、瘢痕と呼ばれる線維性の組織に置き換わっているため、毛髪や脂腺、汗腺といった、皮膚付属器と呼ばれる正常構造がありません。そのため、一見すると表面がつるっとして光沢があり、幅が広い場合は目立つことがあります。特に毛の生える部位のケガは、傷跡に毛が生えにくく、目立つことがあります。傷跡が落ち着く時期を見計らい、幅を狭くする手術やレーザー治療、あるいは傷跡に植毛することによって目立たなくさせることが可能です。

3. 盛り上がった傷跡

ケガをした場合に、縫合することができないキズは、基本的に瘢痕と呼ばれる線維性の組織に置き換わることで治ります(瘢痕治癒と言います)。適切な処置や、創傷被覆材と呼ばれる治癒を促進する保護材料を使用して治ったとしても、のちに傷跡が盛り上がること(肥厚性瘢痕と言います)があります。特に口のまわりはよく動くため、傷跡が盛り上がりやすい部位になります。中には、傷跡が盛り上がりやすい体質(ケロイド体質)もあり、長期間赤みや痛み、かゆみといった症状が残る人もいます。ケロイド体質の人では、耳周辺の傷跡が盛り上がることもあります。部位や体質によって盛り上がりやすさは異なりますが、症状が強い場合には各種治療が必要なことがあります。

傷跡の予防

1. テープ

縫合された傷跡をきれいにするためには、ある程度の期間、縫合部にかかる緊張を和らげることが大切です。一般的には、抜糸後に傷跡専用のテープを貼り、傷跡の幅が広がるのを防ぎます。部位や体質にもよりますが、瘢痕が落ち着くまでの3カ月から半年程度続けた方が効果的とされています。よく動く部位や、傷跡に強い緊張がかかっている場合では、傷跡が落ち着くまでの期間も長くなります。

2. 内服

傷跡が盛り上がりやすい体質の人には、抗アレルギー剤であるトラニラストを内服することが効果的とされています。子供にも使用できる比較的優しい作用の薬ですが、まれに膀胱炎様症状が現れることがあります。

3. 圧迫

傷跡を圧迫することも、盛り上がりを抑える効果があります。スポンジや保湿作用もあるシリコンジェルシートを使用します。

4. 遮光

キズには必ず炎症を伴いますので、治ったあとでも赤みが残ることがあります。時間とともに薄くなっていきますが、赤みのある時期に紫外線に当たると、皮膚の色素であるメラニンが過剰に産生され、色素沈着、いわゆるシミの状態が残ります。したがって、傷跡が赤いうちは、遮光テープや日焼け止めクリームを使用した方が、のちに目立たない傷跡になります。

傷跡の治療

傷跡の予防処置をしても目立つ場合には、いくつかの方法で目立たなくすることができます。

1. 注射

赤みがあって痛みを伴う傷跡には、合成副腎皮質ホルモン(ステロイド)であるトリアムシノロンアセトニドを注射することがあります。注射の際に痛みを伴うことがありますが、炎症を落ち着かせて硬い瘢痕組織を柔らかくする作用があります。ただし、頻回に投与すると、毛細血管の拡張や皮膚が薄くなって陥凹変形が残ることがあるほか、女性の方では生理不順などの副作用があるため、通常投与間隔を空けながら行います。

2. テープ剤

ステロイドを含有したテープ剤を貼ることも、盛り上がった傷跡に有効な場合があります。注射と同様に、長期間貼り続けると副作用が出るため、経過をみながら行います。一般的には注射よりも効果は弱いですが、痛みがない点が優れています。

3. レーザー

赤みと盛り上がりが強いケロイドに対しては、血管に作用し、数を減らす効果のあるレーザー(代表としてはNd:YAGレーザー)が有効です。また、白く成熟した瘢痕には、皮膚に微小な穴を開けることで皮膚の再生を促す作用のあるフラクショナルレーザーも、傷跡をぼやかす効果があります。ただし、これらは基本的に保険診療外治療になります。

4. 手術

手術以外のいくつかの処置をしても傷跡が目立つ場合、あるいはひきつれが強く、目が閉じられない、口が閉じにくいなどの症状がある場合は、手術治療が必要なことがあります。手術内容は、傷跡をそのままの形で縫合し直すこともあれば、直線状の傷跡をジグザグにしたり(W形成術)、皮膚を入れ替えたり(Z形成術)することもあります。部位や傷跡の状態をみて判断するので、どの方法が良いかはそれぞれの状況で異なります。また、ケロイド体質の方には、手術後に放射線治療を行うこともあります。さらに、傷跡が広範囲におよぶ場合には、からだの別の組織を移植して再建したり、あるいはエキスパンダーと呼ばれる皮膚の拡張器を使用して治すこともあります(詳しくは頭蓋・顔面の組織欠損のページをご覧ください)。

一方、手術をしても傷跡がなくなるわけではなく、形成外科的手術手技に慣れていないと、場合によっては一層目立つ傷跡になることもありますので、執刀医からよく説明を聞かれることをおすすめします。また、せっかく手術をしても、そのあとの予防処置をおろそかにすると、期待された傷跡にならないことがありますので注意が必要です。

著者

徳島大学大学院医歯薬学研究部形成外科学
准教授 安倍 吉郎

徳島大学医学部形成外科・美容外科

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